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うちで楽しめるモータースポーツ・コラムを
- 作家いしいしんじ氏と小学生の息子ひとひ君を惹きつけてやまない、モータースポーツの世界。雑誌『オートスポーツ』では「いいレースって、なんだろう?」への寄稿をきっかけに、2017年からコラム『ピット・イン』の連載がスタート。すでに80回を数え、同誌に欠かせない存在となっています。「門外漢」だからこそ見えてくる、レースとスピードの本質に触れる、日常から非日常を照らす、これまでにない読み心地のモータースポーツ・コラム。自分が生まれていない頃に活躍したクルマやドライバーに焦がれる、時をかける小学生ひとひ君の描く絵もイメージを広げています。モータースポーツに夢中な人はもちろん、昔は好きで見ていたなという人にも、まとめて読んでみてほしいと思い、書籍化を計画しました。「モータースポーツって何が面白いの?」と聞かれたら、この本を差し出すと、それが答えになるかもしれません。F1日本GPが開催されない2020年シーズン、いつも変わらずにあると思っていたイベントが中止になってしまったり、まだまだ先の見えない毎日が続く現在に、風通しのいい時間をお届けしたいと考えています。
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著者いしいしんじ氏からのメッセージ
- ランチア、本田宗一郎、フェルスタッペン、馬。
ひとひの絵がずんずん進歩していくいっぽう、
僕は、ずうっと同じ風景のなかを走りつづけています。
オヤジからコドモまで、鈴鹿からシベリアまで、
競馬から映画まで!
クルマにくわしくなくても楽しめる、モータースポーツ小咄集です。 -
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- いしいしんじ氏(左)と息子ひとひ君(右)
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いしいしんじ・プロフィール
- 作家。1966年大阪生まれ、現在は京都在住。京都大学文学部仏文学科卒。2003年『麦ふみクーツェ』で坪田譲治文学賞、2012年『ある一日』で織田作之助賞、2016年『悪声』で河合隼雄物語賞を受賞。『ぶらんこ乗り』『トリツカレ男』『プラネタリウムのふたご』『ポーの話』『みずうみ』『よはひ』『海と山のピアノ』『且坐喫茶』など著作多数。モータースポーツのほか、SP盤収集、蓄音機、茶道など趣味も幅広い。
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無意識の光 いしいしんじ
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連載のきっかけとなった auto sport No.1449(2017年2月17日号)「いいレースって、なんだろう?」企画に寄せられた、いしいしんじ氏の原稿、いしいひとひ氏の絵を掲載します。
- 六歳になる、うちの息子「ひとひ」の、本年度初頭の三大ニュースは、トヨタのWRC復帰、ストフェル・バンドーンのマクラーレン・ホンダ昇格、それに、みずからの小学校進学である。
生後すぐのころから「まわるもの」、レコードとタイヤに、いったいなんで、というくらい惹きつけられていた。京都の、観光バスがつぎつぎやってくる場所の近くに住んでいるため、ベビーカーから見上げる、巨大なバスのタイヤが好きになった。いまでは、信号の向こうからやってくる市バスのフロント部分を一瞥しただけで、
「あ、いすゞや」「ひのの、あたらしいやつやんな」「うわ、めずらし! にっさんディーゼルの、めっちゃふるいやつ!」
などと、見分けられるまでに育った(よその都道府県のバスでも同じ)。尊敬するひとはカルロス・サインツとマックス・フェルスタッペン。昨年のル・マンの翌日には、
「おとうさん、きょうは、お台場のトヨタいって、みんなを、はげまさなあかん!」
そういって、実際にでかけ、職員のみなさんに、がんばったで! すごかったで! と声をかけてまわった。
ひとはどうして、乗り物、クルマ、モータースポーツに惹かれるのだろう。
スピード、轟音、息をのむ造形。最先端のテクノロジーと、もっとも普遍的な人間くささ。スペクタクル。国境をこえた連帯。闘争本能。
どれも正しいけれども、どれも、そのうちのひとつにすぎない。目の前に迫り、すべてを飛び越えていくGT-Rの前に、ひとはことばを忘れる。「かっこいい!」「クール!」のひとことでいいじゃないか!
あらゆるかっこよさは、危険に裏打ちされている。六歳のひとひも含め、どんな家庭の子も、親が真っ青になりそうなところに平気でのぼり、川に落ちそうなぎりぎりの縁で自転車を急停止させニヒヒと笑う。
「死」は、暮らしのいたるところに潜んでいる。僕たちはそれを無意識のうちに知っている。自分が永遠に生きつづけると本気で信じているひとは、頭がどうかなっているか、商売っ気のある、なにかの教祖だ。ふだん僕たちは「死」を、とりあえずはひた隠す。不吉な、不穏なものとして、無意識の底にしまっておく。
スポーツは肉体の限界を試すもの。なかでもモータースポーツくらい、「死」ととなりあい、「死」に向き合い、「死」を越えていこうとする競技はほかにない。ドライバーは誰ひとり目をそむけない。アクセルを踏みしめ、ステアリングを回す瞬間ごと、ドライバーは「死」を飛び越えていく。無意識の光を周囲にほとばしらせて。
ぎりぎりの「死」は、ぎりぎりの、「生」そのものだ。レースという時間がつづくあいだ、僕たちは、ドライバーたちの、なにひとつ隠されることのない、凝縮された一生を見守る。荘厳な「死」に縁取られた、絢爛な「生」を目の当たりにする。そのあいだ、僕たちもともに生きている気がする。だからレースに、ドライバーたちに、惹かれてやまない。
鈴鹿の「ファン感」の日、ひとひと一緒にピットを訪ねたことがある。4歳になったばかりのひとひは、レーサーやクルーの皆さんに大歓迎され、抱きあげられては、つぎつぎとWECマシンのコックピットに座らせてもらった。クルマを大好きな四歳児の姿に、ピットにいる全員が心底喜んでいた。クルマ好きこそ、年齢も国籍もこえる。
俗に、ハンドルを握ると性格が出る、という。おとなしいひとが、じつはスピード狂だったり、ガミガミ屋が、ものすごく慎重な運転だったり。鈴鹿のピットで、四歳児に真剣にステアリングの切り方を教授するレーサーたちを見守りながら、僕は、モータースポーツに携わっているひとは、ハンドルを握っても握らなくっても、一緒だ、とおもった。ふだんから、無意識ダダ漏れだ。小学校にあがる前の子どもと同じ。好きなものが好き。見慣れないものを恐れない、逆に、危ないものにはギリギリまで迫りたい。前をいく速いなにかに、追いつき、追い越したくってしょうがない!
無意識過剰は死を恐れない。死があってこそ生が輝くと知っている。レース、という特別な生。本気で笑い、本気で泣き、愛するものを本気で、全身全霊で愛す。それがモータースポーツのドライバーだ。
この稿を書くにあたり、六歳のひとひにインタビューをこころみた。一緒に鴨川を歩きながら、
「なあ、ひとひ、いいレースって、どんなレースかな?」
するとひとひは立ち止まり、まっすぐに僕の目を見て、
「あのね、おとーさん」
さとし、教えるようにいった。
「レースはね、いいとか、わるいとか、ないねん。レースは、ぜんぶ、すばらしいん。わるいはんそくと、おもしろいはんそく、とか、そういうのんはあるよ。でも、レースは、レースやったら、ぜんぶ、すばらしいん。だってね、それが、レースなんやから」 -
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書籍に収録予定のコラム(一部)
- めざめたサーキット
赤と白のクリスマス
トミカの富田さん
ふたつのダカール
F1のかっこよさ
ニッポンのGT
うなるミツアナグマ
跳ねまわる馬
キミ語
透明な手
佐藤琢磨インディ500制覇、トヨタのル・マン24時間への挑戦など、モータースポーツの記録と記憶に残る場面を再体験するコラムを一挙掲載。300ページ以上のボリュームで、お届けする予定です。 -
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書籍化への応援よろしくお願いします
- 『ピット・イン』を書籍で読んでみたいと思っていただけたら、ぜひ、ご支援をお願いします。
このコラムを、できるだけ多くの方に読んでいただきたく、まずは存在を知ってもらうために、クラウドファンディング(CF)を使った出版計画を立てました。集まった金額は、このプロジェクトを支援いただいた方への特典、CF限定プレミアムカバーの書籍『ピット・イン』の制作費に充当させていただきます。
A:おとくな書籍ご予約コースは、2020年11月に発売予定の書店流通版の書籍『ピット・イン』の販売予定価格(2700円+税)より25%お得な支援額となっています。このCFプロジェクトでしか手に入らない限定デザイン「プレミアムカバー」版の書籍を、お送りします。
B:『ピット・イン』満喫コースは、CF限定プレミアムカバー版の書籍に加えて、『ピット・イン』の世界を彩るカラーイラストを使用したポストカード8枚セット、いしいしんじ書き下ろし限定特典おまけブック付きで、お届けします。いしいひとひ君の絵をデザインしたポストカードは、このCFプロジェクトでしか手に入らない貴重なアイテム。おまけブックの内容は届いてからの、お楽しみ。ここでしか読めない文章やイラストを掲載予定です。
C:ご支援に感謝コースは、CF限定プレミアムカバー書籍の巻末ページに「ご支援感謝クレジット」として支援者の「お名前」を掲載させていただきます。また、著者いしいしんじ氏の直筆サイン&イラストを入れたスペシャルシートを同封させていただきます。シートは、CFでしか手に入らない『ピット・イン』をイメージした特別なデザイン。サインに添えるイラストは、すべて違う内容の「1点もの」で、いしいしんじ/いしいひとひがランダムで絵を描きます。
D:ダブルで特典コースは、BコースとCコースの特典どちらも付いています。
E:世界にひとつの小説&パーティ参加コースは、10名限定のスペシャル特典です。「お好きなテーマで、いしいしんじが書き下ろすオリジナル小説」と「オンライン出版記念パーティ参加権」を、ご用意しました。Dコースの特典も、すべて一緒にお送りします。オンライン出版記念パーティは、2020年10月11日(日)13時ごろの開催を予定。カメラ付きPC・スマホからの参加を想定しています(カメラなし音声のみのご参加も可能です)。ご希望のテーマで、いしいしんじが書き下ろす、あなただけのオリジナル小説は紙にプリントしたものを、その他の特典と一緒にお送りします。
『ピット・イン』のブックデザイン、限定プレミアムカバーなどCF特典デザインは、雑誌『オートスポーツ』のアートディレクターであり、連載スタートからコラムのページデザインを手がける原靖隆さん(Nozarashi.inc)です。 -
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書店さまへのご案内
- 2020年11月発売予定の書籍『ピット・イン』の事前注文を受け付けています。ご希望に応じて、お客様への購入特典として「著者いしいしんじ氏の直筆サイン入りカード」をご用意します。お問い合わせ、ご注文は下記まで、お願いします。
株式会社 三栄 販売統括部 担当:宮外
電話:03-6897-4611(平日10:00 - 17:00)
メール:san-ei@san-ei-corp.co.jp
書籍『ピット・イン』
著者:いしいしんじ
絵:いしいひとひ
発行:株式会社 三栄
2020年11月 発売予定
予価:本体2700円+税